八岐大蛇神話(古事記) クシナダヒメを八岐大蛇から救った スーパーヒーロースサノオの誕生

アマテラスの岩隠れの原因を作った張本人であるスサノオは、ついに高天原から追放されてしまいます。

 

出雲国の肥河(ひのかわ)の上流にある

鳥髪(とりかみ)

というところに天下りました。

 

肥河は、今の

斐伊川(ひいかわ)

のことです。

 

島根県と鳥取県の県境にある

船通山(せんつうざん)

を水源として、宍道湖(しんじこ)に注いでいます。

 

 

さてさて、見知らぬ土地に降臨したスサノオは、どこに行ったらいいものかと、しばし川辺にたたずんで思案しておりました。

 

すると、1本の箸が流れてきたのです。

これを見たスサノオは、上流に人家があるに違いないと思い、川上を目指して歩きはじめます。

しばらく歩くと、予想どおり川のほとりに建つ1軒の家が見えてきたのです。

 

日暮れも近づき、空腹を抱えたスサノオは、何はさて置き、この家で一宿一飯にあずかろうと、勇んで家に近づいて行ったのです。

 

 

戸口の前まで来たとき、中からすすり泣く声が聞こえてきました。

スサノオは少し身を引いて中の様子を窺いました。

 

すると、薄暗い部屋の中で夜目にも美しい少女を中に置いて老人と老婆が力なく座り、三人が手を取り合ってさめざめと泣いているのが見えたのです。

この光景にスサノオは一瞬躊躇しましたが、日はどんどん暮れてくるし、他に行くあてもないので、思い切って戸を開き、声をかけたのです。

 

「ごめんください。私は旅のものですが、見知らぬ土地に来てなんぎしております。

今夜、お宅にお泊めいただくことはできないでしょうか?」

 

堂々たる偉丈夫の突然の来訪に、度肝を抜かれた老人たちは居住まいを正し、軽く頷きながら言いました。

 

「それはお困りでございましょう。こんなところで宜しければ、どうぞお泊りくださいませ」

老人の言葉に老婆も相槌を打ち、少女も伏目がちにスサノオに会釈をして賛意を表しました。

 

そして、三人は再び肩を落として沈黙したのです。

 

 

「ありがとうございます」

スサノオは心より礼を述べましたが、胸中は複雑でした。

三人は尋常ならざる事情を抱えているようです。

 

そんなところに見ず知らずの自分が泊めてもらってよいのだろうか・・・

とは言うものの、ほかに行くところもない。

 

事情を聞いて、自分が力になれるものならなってやろう。

そんな思いを募らせたスサノオは重い口を開きます。

 

「ところで、突然お邪魔して無理なお願いを聞き入れていただいた上に、立ち入ったことをお聞きするのはせんえつ至極ですが、

あなた方には並々ならぬご事情がおありとお見受けしましたが・・・」

 

意外な問いかけに、三人は一斉にスサノオに視線を走らせました。

 

 

そして、老人は重い口を開き語り始めました・・・・。

 

「私は国神(くにつかみ)の大山津見神(おおやまつみのかみ:山の神様です。以下オオヤマツミといいます)。の子で、

足名椎(あしなづち:足を撫で慈しむ者:以下アシナヅチという)

と申します。

 

こちらにおりますのは、私の妻で

手名椎(てなづち:手を撫で慈しむ者:以下テナヅチといいます)

です。

 

そして、こちらは娘の

櫛名田比売(くしなだひめ:稲田の守護神:以下イクシナダヒメといいます)

です。」

 

 

「そのような立派な家柄の方が、なぜこのような深い悲しみにとらわれて泣いていらしたのですか?」

スサノオはさらに問いかけます。

 

 

「実は、私たち夫婦には八人の娘がおりました。

 

ところが・・・・

毎年、高志(こし:島根県出雲市の地名か?)の山から

八岐大蛇

(やまたのおろち:以下ヤマタノオロチといいます)

がやって来て、娘を一人ずつ食べてしまい、この娘だけが残りました。

 

しかし、今年もまた、ヤマタオロチがやって来てくる時期になり、最期に残ったこの娘も食べられてしまうのです。

 

あの凶暴なオロチから、私たちの手で娘を守ってやることはできません。

それが悲しくてないていたのです。」

 

 

スサノオがその姿を尋ねると、アナヅチが答えました。

 

・ホオズキのような真っ赤な目をしている

・胴体は一つだが、八つの頭と八つの尾を持っている

・体のいたるところにヒノキや杉の木が生えて、ツタた生い茂っている

・その長さは八つの谷、八つの峰に及ぶ

・腹の辺りにはいつも血がにじんでただれている

 

 

ヤマタノオロチの様子を聞いたヤサノオは、アシナヅチに

「自分がそのオロチを倒して娘を救ってあげましょう」

と言いました。

 

そして、

「オロチを退治した暁には、クシナダヒメを妻として娶りたい」

と申し出たのです。

 

 

スサノオの言葉に、アナヅチとテナヅチはたいそう喜び

「それおは恐れ多いことです。娘を差し上げます。」

と言いました。

 

 

しかし・・・

娘を嫁がせるからには婿となる男の素性を知りたいと言います。

 

 

それに応えてスサノオが、自分の素性を明かします。

「私はアマテラスの弟で、今しがた高天原から下ってきたところだ」

と告げます。

 

 

これを聞いたアシナヅチ、テナヅチは

「アマテラスの弟君とは畏れ多いことでございます。

命を助けていただいた上に、そんな高貴な方に嫁がせていただければ娘も本望でございます。」

と言って、クシナダヒメを嫁がせることを約束したのです。

 

 

テナヅチからヤマタノオロチを退治した暁には、娘のクシナダヒメを妻として娶る約束をしたスサノオは、さっそくオロチ退治の準備にとりかかりました。

 

先ず、クシナダヒメに術をかけて

爪櫛(つまぐし:爪型の櫛)

に姿を変えて自分のミズラに挿しました。

 

将来、妻となるべき女性を肌身につけることによって、護りとおそうとするスサノオの決死の覚悟がうかがえます。

また、爪櫛は邪悪なものを祓う神聖な櫛で、それを身につけることによって振り掛かる難を振り払おうとしたのです。

 

 

次にスサノオは、アシナヅチ、テナヅチに対して

「あなた方は、先ず幾度も繰り返し醸した強い酒(八塩折の酒)を作ってください。また、家の周りに垣根を張り巡らし、その垣根には八つの門を設けて、門ごとに桟敷を設けて、八塩折の酒を満たした桶を置いてオロチを待ち受けてください。」

と命じます。

 

 

準備が整うと、スサノオは老夫婦とともにヤマタノオロチの来襲を待ち受けました。

しばらくすると、アシナヅチの言った通りの巨大なヤマタノオロチが現れました。

 

芳香の漂う酒を見つけたオロチは、鎌首をもたげて八つの桶にそれぞれの頭を突っ込んで、酒を飲み始めました。

そして、すべての酒を飲み干すと、オロチは酔って地面に突っ伏して寝込んでしまったのです。

 

 

「計画どおりだ!!」

そこで、スサノオは腰に差していた

十拳剣(とつかのつるぎ)

を抜くと、オロチをズタズタに斬り散らしたのです。

 

 

オロチからは大量の血が流れ出して、肥河に流れ込みました。

肥河はさながら血の河となって激しく流れました。

「あれっ、何かあるぞ!」

オロチの中ほどの尾と斬ったとき、何かに当たって剣の刃がこぼれました。

 

不思議に思ったスサノオが剣の先で尾を切り裂いてみると、中からみごとな太刀が出てきました。

スサノオはこの太刀を取り出し、不思議な太刀だと思い、後に事の次第を説明してアマテラスに献上しました。

 

これが三種の神器の1つ

天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ:後の草薙の剣)

なのです。

 

 

見事、ヤマタオノロチを退治したスサノオはめでたくクシナダヒメと結婚しました。

 

新居を建てる土地を出雲一円で探した結果、

須賀(すが:島根県雲南市の地で須賀神社が鎮座する)

というところに宮殿を建てることにしました。

 

 

この土地を探し当てたとき、スサノオは

「この土地に至り、わたしはとても清々しい気分だ!」

と言ったそうです。

そのことから、この土地を須賀とよぶようになったとか

 

 

また、宮殿を新築したとき、このあたりで盛んに雲が立ち上がったらしく、その様子を見たスサノオは次のような歌を詠みました。

 

八雲立つ、出雲八重垣 妻ごみに

八重垣作る その八重垣を

(盛んに湧き起こる雲が垣根を成して幾重にも宮殿を囲んでいる。きっと宮殿にこもった新妻を守るために幾重にも垣根を巡らせているのだろう。なんと素晴らしい雲の垣根ができたことだろう。)

 

 

そして、アシナヅチを呼んで

「あなたを私の宮殿の首長に任命しましょう」

と言って、

稲田宮主須賀之八耳神(いなだのみやぬしすがのやつみみのかみ)

という名を与えました。