アマテラスとの誓約(うけい)により、三柱の女神を生んだスサノオは、歓喜に胸を躍らせながら勝利を宣言しました。
「麗しい女神を生んだことで、私の身の潔白は証明されました。姉上!!私は誓約に勝利しました!!」
アマテラスはゆっくり頷いて、弟の勝利を認めました。
それと同時に、スサノオに邪心がなかったことに安堵しました。
これで高天原も安泰です。
・・・ところが、それも束の間でした・・・
勝ち誇ったスサノオは歓喜の念を高ぶらせて、とんでもない乱暴狼藉(ろうぜき)を働きはじめたのです。
先ずは、小手調べといわんばかりに、アマテラスが食べる米を耕作する神聖な田んぼの畔を壊しました。
そして、田に引く水路を埋めました。
さらに・・・アマテラスが新嘗祭(にいなめさい)のときに新穀をいただくための神殿に行き
その神聖な場所に、糞を撒き散らしたのです。
高天原の神様方は、この前代未聞の光景を、茫然自失の態で眺めていました。
誰もスサノオの暴挙を止めることはできなかったのです。
暴漢とはいえ、スサノオは高天原の最高神アマテラスの弟君だったからです。
そして、当のアマテラスはいうと・・・
「あのように糞のように見えるのは、わが弟が酒に酔ってヘドを吐いたのでしょう。
また、田の畔を壊したり、用水路を埋めたりしたのは、もっと土地を有効に活用できるように田んぼの区画を仕切り直したのでしょう」
出来の悪い弟を庇ました。
なんともまぁ・・・弟を庇う態度に出たのです。
古代において、悪事を善事に置き換えて、言い換えることによって、実際に事態が改善されると考えられていたからです。
これは、一種の「言霊信仰」になります。
言霊の威力によって、スサノオの乱暴狼藉を止めさせようとしたのです。
・・・・・しかし、その霊力もスサノオには無力でした。
その後、スサノオの乱暴振りは、どんどんエスカレートして行きました。
ある日、アマテラスが、神聖な機屋(はたや)に行って、機織女に神の衣装を織らせていました。
そのとき・・・
屋根の上から大音声が轟きました。
アマテラスと機織女が驚いて上を見ると、天井に大きな穴がぽかりと開いているではありませんか!
何事かと息を呑んだ瞬間、その穴から
血の滴る大きな物体
が落ちてきました。
スサノオが、
まだら馬の皮を剥いで投げ入れたのです!!
これを見た機織女は、恐怖に駆られて、
梭(機織りのとき、横糸を通す紡錘形の道具)
で陰部を突いて死んでしまったのです。
このようなおぞましい光景を目にしたアマテラスは、さすがに恐れをなしました。
そして、なんと、
天の岩屋を押し開いて、岩屋の中にこもってしまった
のです!!
これが神話の中でもよく知られるアマテラスの
「岩戸隠れ」
なのです。