死んだイザナミを追って黄泉つ国まで行ったイザナギでしたが、
イザナミから言われた「決して見ないように」という約束を破り、変わりは果てた妻の姿を見てしまい、結局永遠に妻を失うことになりました。
夫婦が死に別れ、最後の望みをも絶たれる結末は、他国の神話にも残されています。
有名なのがギシシャ神話のオルフェウスの物語です。
オルフェウスは、
歌や竪琴の演奏に優れた楽人
で、凶暴な野獣や森の木々さえも感動させる名手でした。
オルフェウスは、
エウリュディケ
という美しい新妻と仲むつまじく暮らしていました。
ある時エウリュディケが河畔を散歩していると、一人の暴漢が現れ彼女に乱暴を働こうとしました。
慌てて逃げたエウリュディケはあてどもなく走り続け、うっかり草むらに潜んだ毒蛇を踏みつけてしまったのです。
毒蛇はとっさに彼女に噛み付き、憐れなエウリュディケはそのまま息を引き取ってしまいました。
オルフェウスは、突然の妻の死に嘆き悲しみました。
しかし、一向に彼女のことがあきらめ切れません。
それで、生きたまま死者の国である冥府を訪れます。
そこには数々の難関が待ち構えていましたが、彼は楽の音で地獄の番犬ケルベロスを大人しくさせ、とうとう冥府の王が住む宮殿にたどり着きます。
オルフェウスは冥王夫妻の前で、エウリュディケ返還を願う歌を歌い竪琴を奏でました。
すると、亡者達は皆ことごとく涙を流し、冥王夫妻もことごとく感動し、彼にエウリュディケをつれて戻ることを許したのです。
ただし、
地上に帰って太陽の光を浴びるまでは決して後ろから着いてくる彼女を振り返ってはいけない
という条件があり、彼はそのことを約束しました。
そして、オルフェウスは感謝し、エウリュディケを伴って地上へと戻る長い道のりを歩いていました。
しかし、次第に本当にエウリュディケが後からついてくるかどうか心配でならなくなり、あともう一息で地上に出れるという時に、思わず後ろを振り向いてしまったのです。
オルフェウスが振り向くと、エウリュディケは消え入りそうな声を上げてそのまま冥府へと引き戻されてしました。
こうして、条件を破ったオルフェウスは、永遠に妻を失ってしまったのです。
こうした類似神話がある原因としては、独立発生して似ていただけと考えることもできますが、
① なんらかの形で物語が伝わっていた
② 共通の祖先を持っていた
などが挙げられています。
また、イザナギが所持品を投げて足止めにして逃げる話は
呪詛逃走
と言われており、北アメリカインディアンのヌートカ族の間にも
狼達に追われた男が逃げながら櫛を植えると山になり、油を注ぐと湖になり、そうやって逃げ延びることができた
という神話が残されています。
東南アジア近辺で、類似神話が残されていても、地理的に近いため不思議はありませんが、はるか遠いギリシャや北アメリカにこのような話が残されているのは、本当に不思議ですね。